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吸音パネルの製作

愛用している自作の円筒形スピーカーを引越した。
今度の部屋は従前よりも少し広い八畳間だが理想には程遠い視聴環境だ。

そこで少しでも残響特性を改善し、解像度の高い音を聴くべく吸音パネルを自作した。
吸音パネルによって部屋の共鳴が軽減され、高音-中音-低音のバランスが向上した。
これによって美しく再生できる楽器の幅が広がり音楽の魅力が増した。

円筒形スピーカー自体の性能を改良すべく長年に亘って試行錯誤を繰り返したが、
「先ず隗より始めよ」ならぬ「先ず部屋より始めよ」だったと後悔している。

1.基本構造

写真の様に板状に纏め、作り付けの書棚へ吊り下げた。
書棚の本を取り出す際に、跳ね上げられるように 特殊な蝶番を使ったので簡単に取り外せる。
1枚の大きさは縦1350mm*横910mmだ。これを2枚並べた。



2.支持板

吸音材を貼り付ける板には、軽量で安価なプラスチックダンボールを使った。
プラスチックダンボールには方向性が在るので、2枚を縦横に重ねて粘着テープで接着して強度を確保した。
プラスチックダンボールの定尺は、910mm*1820mmだ。これを910mm*1350mmに切って使った。

下の写真は完成した吸音パネルの裏側を撮影した。粘着テープが透けて見える。
左端に補強用のアングル棒と吊り下げ用金具が写っている。



3.吸音材

ストライダー社から購入した、くさび形吸音スポンジを使った。
カームフレックスと称するウレタン系のスポンジで縦横とも225mmの正方形だ。
ストライダー社は、くさび形と呼んでいるが実物を見ると波形だった。厚さは山が50mm、谷が15mmだ。


1枚のパネルには縦6枚横4枚で合計24枚の吸音スポンジを両面テープで貼った。
縦波と横波を交互にして特性の平均化を図った。

両面テープは全面には貼らずに中央部分だけにした。
両面テープは値が張るので節約したのと、失敗した際に剥がし易いからだ。


下の写真の両面テープを使った。適度な粘着力で具合が良かった。
プラスチックダンボールの貼り併せにも使ったので1個半を消費した。


両面テープを鋏みで切る際に、刃に粘着材が纏わり付き数回で切れなくなり難渋した。
しかし対策を見つけた。指先で鼻を摘み、その指で鋏みの刃を撫でるだけだ。
僅かな鼻の脂で粘着材が付かなくなる。

4.補強用アングル棒

プラスチックダンボールは、蝶番を直接にネジ止めして吊るには強度不足だ。撓んだり裂けたりするだろう。
そこで上端をプラスチック製のアングル棒を使って補強し、これに蝶番を固定し吊り下げた。

プラスチック製アングル棒は(株)光モール製のエコアングル20X20を使った。
手に取った感じはアルマイト処理されたアルミのような剛性感があるが、もっと軽い素材だ。


アングル棒とプラスチックダンボールの固定は、ネジ留めと接着を併用した。
接着剤はホットボンド(熱溶融接着剤)を使った。



5.吊り下げ金具

吸音パネルを設置した後も書棚の本を取り出す事が在る。
そこで吸音パネルを跳ね上げられるように蝶番を使って吸音パネルを吊り下げた。
更に、 蝶番には引掛蝶番を使ったので吸音パネルを上に持ち上げるだけで簡単に取り外せる。
蝶番の幅は30.5mmだ。


半世紀ほど昔の電気測定器は木製ケースに入っていた物が多かった。
それらの蓋には、この引掛蝶番が使われていた。 蝶番として機能し、蓋を取り外すのも簡単だ。

しかし近くのホームセンターには売っておらず、店員も知らなかった。
仕方なく遠方から取り寄せた。

6.材料費の内訳

吸音パネル2枚分の材料費は下表の通りだ。1枚あたり約6千5百円だ。
 
品   名 単 価 数 量 小 計
くさび形吸音材パーツ48枚 + 送料  ¥ 10,010 1  ¥ 10,010
両面テープ PAD-50  ¥     934 2  ¥   1,868
プラダン  ¥     225 2  ¥     450
エコアングル 20*20  ¥     160 2  ¥     320
ステンレス 小ネジ 10本入り  ¥     320 1  ¥     320
引掛蝶番  ¥      60 4  ¥     240
費 用 合 計  ¥ 13,208


7.設置の効果

吸音パネルは、スピーカーの背後に在る壁からの反響を軽減し解像度の高い音を聴こうとの発想で製作した。

ところが想定を超える大きな効果が在った。その結果から部屋は大きな共鳴箱だと認識した。
吸音パネルによって部屋の共鳴が軽減され、高音-中音-低音のバランスが向上した。

試行錯誤の末に円筒形スピーカーは従前よりも美しい音を出すようになった。
具体的には下記の様な変化が在った。

◎高音減、低音増
従前よりも低音が増え、高音が減った。
吸音パネルによって部屋で響きやすい高音が弱まったらしく相対的に低音が増えたのだろう。

吸音パネルから離れた部屋の隅に45度の角度でシャープ製TVが置いてある。
驚いた事に、その低音も顕著に増えた。この事から部屋は共鳴箱だと確信した。

パネル設置前でも普通に音楽が楽しめる部屋で「東照宮の鳴き龍」のような顕著な共鳴は無かった。
拍手を打っても響かないのは、 部屋の天井に凹凸のある石膏ボードが使われているためだろう。
それでも従前では感じない共鳴が音楽に影響を与えていた。

◎音量の低下
吸音パネルによって高音が減った為か、アンプの音量設定は同じでも音が小さく感じる。
アンプの音量を従前よりも少し大きくして聴いている。

吸音パネルは部屋の何処に置いても同様の効果があった。
部屋の何処かに音を吸収する仕掛けがあれば共鳴は緩和されるようだ。

◎解像度が向上
音楽を聴いている最中に静けさを感じる。
円筒形スピーカーの背後に吸音パネルを設置した事で背面からのこだまが減った為か、
部屋の共鳴が軽減されたせいか解らないが、何れかが寄与して解像度が向上したようだ。

ライブ録音の音楽を聴いている際に、従前は聞こえなかった小さな聴衆の会話が聞こえた。
我が円筒形スピーカーは磁性流体ダンパーを使っているので解像度が高いのだが、更に良くなった。

◎“虜効果”消滅
当初、スピーカーと吸音パネルの間隔を30cm程度にしていた。
30cmでは 前述したような変化は感じるのだが、音楽の魅力が減った。
我が円筒形スピーカーの音には、時間を忘れて音楽を聴き続けたくなる程の魅力があった。
しかし、その“虜効果”が消えた。

スピーカーと吸音パネルの間隔を50cm程度にしたところ“虜効果”が復活した。
一般に吸音スポンジは周波数が高くなるほど減衰量が大きくなる。
30cmでは脳の琴線に触れるような10KHz付近の音が弱まったのかもしれない。

50cmよりも離せば更に良いのかもしれないが、8畳間では狭く隙間の確保は難しい。

◎ピアノの魅力が倍増
これまでの円筒形スピーカーは、殆どの楽器の魅力を再現できたがピアノとパイプオルガンは苦手だった。
ピアノの朗々と響く感じが出せなかった。高音と低音のバランスが変わった為に、良い感じで出るようになった。
しかし本物のピアノの音には遠く及ばない。

◎サックスの魅力も倍増 ('16,12,23 追記)
我が円筒形SPでは、 従前はサックスの音を上手に出せなかったようだ。
何が良いのか全く解らず、音色に魅力を感じなかった。

Dave BrubeckのTake Fiveを聴いてもリズムが心地良いだけだった。
そのため冒頭の部分だけ聴いて、その後は退屈して最後まで聞くことは無かった。
それが最後まで楽しめた。サックスの音色が心地良いからだ。

またManhattan Jazz Quintetが好きで良く聴くが、やはりサックスの魅力が増した。