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      BRONICA ETRの整備        ( '12,07,23 掲載開始 )

ネットオークションでBRONICA ETRを入手した。
その整備の記録です。恐縮ですが、主に自分用の備忘録です。
   

1. 購入の動機
昔、実家の近くにZENZA BRONICAの本社が在ったので親しみが在る。
BRONICA製は高価で手が出ず憧れのカメラだった。
今はデジタル化の煽りで価格が暴落した。可哀想なくらいだ。

仕事が一段落したのでビールを飲みながらオークションを眺めていたら
凄く 格好良いBURONICAが出ていた。
案外に廉かったので酔った勢いで、 入札したら1.3万円で落ちた。

出品者の評価に”非常に悪い”が多い為に金額が伸びなかったのかもしれない。
しかし商品は謳い文句のとおりの美品で梱包も丁寧、何も問題は無かった。


2. 入手直後の点検    ('12,07,21実施  )
外観は凄く綺麗でスレやへこみは全くない。
ボディに貼ってある合成皮革の隅が剥がれかけているが、
それ以外は新品に近く使用感が無い。

取り付けられていた75mmのレンズは綺麗でカビや曇りは無い。
防湿庫で保管されていたそうだが本当だろう。
ヘリコイドも適度な重さで良い感じだ。

フィルムマガジンの内部に遮光スポンジが貼ってある。
古いカメラでは、これが劣化し弾力性を失い光漏れを起こすのだが、
弾力性があり交換しなくても大丈夫のようだ。

ファインダーは標準の折りたたみファインダーではなく、
TTLファインダーのAE-I型が付いていた。
曇りは無く問題なさそうだが電池がないので機能を試せない。

シャッターボタンを押すとミラーが上がりレンズに内蔵されたシャッターが開いた。
しかしミラーが上がりっぱなしで戻らない。故障かと思ったがフィルムを巻き上げたところ戻った。
Webで調べたところ、そのような仕様なのだ。35mmのカメラとは様子が違う。

シャッター速度を切り替えるノブを回してもシャッター速度が変わらなかった。
原因は電池が無い為だった。ETRは電子回路でシャッター速度を制御している。
電池が無い場合には1/500の固定になるそうだ。故障では無い。

電池が無ければ、これ以上の点検はできない。


3. 電池アダプターの製作    ('12,07,22実施  )
BRONICA社が指定している電池は6Vの4SR44で、マンガンではなく酸化銀電池だ。
初期の電子シャッターカメラには良く使われていた。
自分が最初に買ったNikomart ELも4SR44だった。

4SR44は今でも入手できるが価格が高い。amazonでは2,350円もする。
今ほどでは無いが昔から高い電池だった。

4SR44は型番が示すように4個のSR44を直列に繋いで纏めた物だ。
SR44はダイソーで100円で売られている。
これを4個纏めるアダプターを作れば値の張る4SR44を使わずに済む。

Webを検索したところ、工夫した先達がたくさん居た。
それらの多くは4SR44を分解して中の紙筒と電極の金具を利用していた。
真似しようとしたが、手元に4SR44が無い。
以前はNikomart EL用に使っていたのだが、消耗したので捨てたようだ。

そこで他の手を考えた。
電線を束ねるのに用いるスパイラルチューブを利用して電池を纏めた。
これで太さは良い具合になったが、長さが3.2mmほど短く隙間がある。
その隙間には直径12mmのステンレス製座金( ワッシャー )を4枚重ねて挟んだ。



ワッシャーを4枚も使うのは今ひとつ垢抜けないが、
直径12mmで厚さ3mm程度の金属がみつからなかったので仕方ない。
卓上旋盤があれば簡単に作れるのだが。

電池はダイソーで買ったSR44、GP製で1個100円。
ステンレスワッシャーは直径12mm厚さ0.8mm、スーパービバホームで1枚6円。
結束用スパイラルチューブは内径10.2mm、スーパービバホムで168円/1.5mだった。

電池を入れてバッテリーチェックボタンを押したらLEDが点灯した。
露出計やシャッターも機能した。故障は無さそうだが精度が判らない。
撮影する前に確認しなければならない。


4. シャッター速度の測定           ( '12,07,24 実施 )
4-1 RS232Cシャッター速度計での測定
9年前に自作したシャッ ター速度計を持ち出した。
ライカ版用に作った物なのでブローニーフィルムを使うカメラで使えるのか判らなかったが、
当ててみるとギリギリの幅で使えた。光源のボール電球にレンズを押し付けて測定した。


結果は下表のようになった。
1/500で若干誤差が多いが、測定誤差かもしれない。
その他は実用に耐える性能を維持していた。

設定 測定値 理論値 誤差
ダイヤル [mS] [mS] [%]
500 2.3 2.0 17.8
250 3.9 3.9 -0.2
125 7.8 7.8 -0.2
60 16.5 15.6 5.6
30 32.7 31.3 4.6
15 65.9 62.5 5.4
8 131.9 125.0 5.5
4 257.3 250.0 2.9
2 517.9 500.0 3.6
1 1001.2 1000.0 0.1


BRONICA ETRのシャッターダイヤルでは2秒、4秒、8秒も選べるが、
自作のシャッター速度計は1秒までしか測れない。
作った時点で対象としたパルナックライカ互換機には1秒以上は無かった。

昨年に作ったUSB シャッター速度計は長時間も測れるようにプログラムした。
しかし、防湿庫に在る筈だが見つからなかった。
探し出して長時間の測定を試みる予定だ。


4-2 USBシャッター速度計での測定      ( '12,07,25 実施 )
部屋を探し回ってUSB シャッター速度計を見つけ測定した。


結果は下表のようになった。やはり1/500の誤差が大きい。
それ以外は実用に充分な精度がある。

設定 測定値 理論値 誤差
ダイヤル [mS] [mS] [%]
500 2.66 2.0 36.2
250 3.94 3.9 0.9
125 7.48 7.8 -4.3
60 15.93 15.6 2.0
30 32.14 31.3 2.8
15 64.85 62.5 3.8
8 133.13 125.0 6.5
4 256.23 250.0 2.5
2 516.64 500.0 3.3
1 998.96 1000.0 -0.1
2s 2007.66 2000.0 0.4
4s 3970.86 4000.0 -0.7
8s 8113.62 8000.0 1.4

1/500には更なる検証が必要だ。

使用した2台のシャッター速度計では、測定値が僅かに違う。
明暗を判別する敷居値の違いが主因と推定している。
しかしカメラのシャッターを評価するには充分な性能だ。


5. AEファインダーの点検     ( '12,07,27 実施 )
AEファインダーにはTTLで光量を測る機能(M)と、
シャッターと連動して適切に露光する絞り優先自動露出機能(A)がある。

5-1 測光機能の試験
カメラを天井の照明器具に向けて絞りを変え表示されるシャッター速度を読んだ。
結果は下表のようになった。絞りを一段絞るとシャッター速度が半分になっている。
AEファインダーの測光機能は正しく機能した

絞り ASA:50 ASA:100 ASA:200 ASA:400
2.8 250 500 Over Over
4 125 250 500 Over
5.6 60 125 250 500
8 30 60 125 250
11 15 30 60 125
16 8 15 30 60
22 4 8 15 30

測定結果を検証するためにデジタル一眼レフ(NIKON D7000)を手動露出に設定して撮影した。
下の写真で左はAEファインダーが指示した ASA:100 F:2.8 1/500 で撮影。
右はD7000の絞り優先(A)で撮影した。絞りは2.8だ。
被写体は天井のLED照明器具だ。蛍光灯と違って薄く3cmしかない。


AEファインダーのほうが明るいのは全体の明るさを平均的に測っている為だろう。
それに対しD7000の露出計は光っている中央部分を重点的に測っている。

その結果、D7000では全体が暗くLEDが円形に並んでいるのが透けて見えるが、
AEファインダーの露出では白く潰れて判らない。
しかし


5-2 自動露出の試験     ( '12,07,29  実施 )
AEファインダーに内蔵されているTTL露出計とシャッターの連動を試した。
電気的な測定方法を思いつかなかったので、シャッター釦を押してから
シャッターが閉じる音が聞こえる迄の時間をストップウォッチで測った。

カメラを部屋の壁に向け、絞りを22にしたところ8秒を示したので
絞りを一段ずつ開けて測定した。その結果は下表のようになった。

絞り 表示 測定(s) 補正後(s)
22 8 8.54 8.04
16 4 5.47 4.97
11 2 3.18 2.68
8 1 1.79 1.29


シャッターが閉じた音を聞いてからストップウォッチの釦を押す迄の
遅れ時間を0.5秒として、その値を引いたのが補正後です。
概ね倍倍になっているのでシャッター優先自動露出は正しく機能していると 判断した。


6. ファインダースクリーンの洗浄       ( '12,08,05 実施 )
ファインダースクリーンに黒い微粒子が付着して汚れているように見えた。
そこで超音波洗浄器を使って洗ってみた。

その結果、概ねきれいになったのだが片隅に汚れが残っていた。
その部分は綿棒で拭いたところ気にならない程度になった。

この超音波洗浄機は10年以上前に秋月電子通商で買った中国製だ。
廉かったので買ったのだが、残念ながら今は売られていない。
腕時計のバンドやカメラの部品の洗浄に重宝している。

使用時の水面にできる盛り上がりから超音波の振動子は左右の2個と判る。
ファインダースクリーンの隅には充分な強さの超音波が届かなかったのかもしれない。

以前の勤務先には半導体の洗浄に使える程度の超純水が出る蛇口が在った。
止めると菌が繁殖するので使わなくてもチョロチョロと流していた。
その超純水を貰ってきてレンズの洗浄に使っていた。
超純水でレンズを洗うと水を拭き取らずに乾燥させても残渣の輪ができない。

ファインダースクリーンの洗浄には超純水が無いので水道水を使った。
その後タオルに挟んで水気を吸い取った。
残渣の輪ができるのではと心配したが問題ないようだ。

試していないが、市販されている蒸留水や純水には、
微量の不純物が含まれているので残渣の輪ができると思われる。


7. 試写     ( '12,08,01 実施 )
ブローニーフィルムを使った経験が無かったので馴染みの写真屋で
期限切れのフィルムを半値で買い練習のつもりで試写した。思いのほか普通に撮影できた。

撮影は露光量が同じになるように絞りとシャッター速度の関係を保って行った。

フィルムスキャナーを持っていないので、ネガをホルダーに入れたまま窓ガラスに貼り付け
透過した光をデジカメで撮影した。光源は青空だが一部に雲があり上の方が明るく下が暗い
その後、フォトショップでネガポジ変換した。よって色調やコントラストなどは正確ではない。


1枚目(右上)のF16 1/60は露出を間違えた。D7000が示した絞りよりも一段階多く開けた。
2枚目から5枚目は
D7000を露出計の代 わりに使った。
6枚目から9枚目はAEファインダーの絞り優先自動露出を使った。

5枚目のF8 1/500と、 9枚目のF8 Autoは若干露出が僅かに多い感じだ。
シャッター速度測定の結果と一致している。
1/500の実力は1/400程度。その他は設定の時間だ。

しかしプリントの際に補正できる範囲に納まっていると思われる。
ポジフィルムを使う場合には要注意だ。

気になったのはフィルムの送り幅だ。広いところは狭いところの倍程も在る。
120フィルムで15枚撮れているので正常の範囲なのだろうか。

露光量は合格だがフィルムの送りには問題がありそうだ